【ルナアン】紅揺れるフォークダンス
パチパチと炎が揺れる。
今日は体育祭があり、現在後夜祭の真っただ中。
私ルーナは、お目当ての彼女とダンスを踊れなくて少ししょげています。
「はぁ…」
ため息ついたところで何も変わらない。
なんせ彼女はダンス部のエース・アンスリアなのだから
こんな時ダンスを習ってこなかった自分を恨みたくなる。
「ルーナこんなところにいた~ 探したんだから」
「コルワ…ごめんね」
「その感じだとまさか失敗した?」
「失敗っていうか…そこまでたどり着いてないというか…」
「えぇー!あんたのことだから強引にでもハッピーエンドになると思ってたんだけど!」
「失礼な…」
友人の一人のコルワ
手芸部の部長をしていて今回あることをするために協力をしてもらったが現状何も起きていない。
彼女曰く「ハッピーエンドになるだろうから協力してあげる!」とのこと。
「いつもの感じはどうしたのよ」
「なんか…キャンプファイヤー越しにあの子をみてると本当に言っていいのかわからなくて…はぁ」
「ため息つかないでよ!時間なくなるわよ!…ってルーナ、あなたのお目当ての子こっちきたけど?」
「えっ…そんなはず…!?」
見上げると目の前には先ほどまで炎に揺られ華麗なダンスで魅了していたアンスリアがいた。
「ルーナ、探したんだよ…?」
「えっ…ちょっとアン…?ほんとに?」
アンスリアは頬を赤らめて「うん…」なんて言うものだから変に期待してしまう。
もしかしたら一緒に踊れるかもなんて考えちゃう。
「と、とにかく行きましょ!コルワ、ルーナ借りるわね」
「うっわぁ!?ちょっとアン早いよ!」
アンスリアに引っ張られキャンプファイヤーの近くに行く。
後ろのほうでコルワからがんばれぇ~なんてゆるい声が聞こえてきたけど気にしない。
今は楽しまなきゃ
…あれ?わたしちゃんと踊れてる?
アンの顔見すぎてない?大丈夫?てか変な顔になってない!?頬緩み切ってる気がする…あ、なんかいい匂いした。アンってこんな匂いするんだ…ってキモいオタクみたいなこと考えるな!私のアホ!
「…ルーナ大丈夫?」
「ふぁい!?だ、だだ大丈夫!」
めちゃくちゃ動揺しちゃった、困らせちゃったかな…。うまく踊れてる自信もないしなぁ…コルワにも悪いことしちゃったな…。あぁごめんなさい、もうバズーカみたいなカメラで撮影しないから…穴があったら入りたいし、できればそのまま埋めてほしい…。
「本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった…ルーナ上手に踊れてるから、安心して?」
「アンのエスコートが上手なんだよ?」
「ふふっ、ありがとう」
炎で赤く染まるアンスリアを目の前で見て惚れるはずがない、美しいただその一言に尽きる。やっぱり今日言うしかない、チャンスは一度切り。
フォークダンスも無事に終わり、中庭の景色を眺めているけどいつ切り出すべきか…
「楽しかったわね…フォークダンス、あぁいうダンスはあまり踊らないから勉強になるわ」
「そ、そうなんだ…こういう機会が勉強になるなんてすごく素敵だね」
うまく返すことができない、このままだとバイバイする時間が早まっちゃう…!
「ルーナ?今日やっぱり変よ?いつもの感じじゃないし…ってルーナ泣いてるの!?どうしたの!?」
「え…?」
自分でも気づいていなかったけど、瞳からボロボロ涙がおちていく。
「アン〜〜〜ッ!」
もうわけもわからず、本能で彼女に抱きつく。彼女はびっくりしてたけど、わたしを落ち着かせるために背中を撫でてくれた。
「ごめっ、なんかわかんないけど、止まらなくて…」
「ふふっ大丈夫よ、ルーナのこんな姿みれるのはわたしだけって思うと嬉しいわ…」
「そ、それってどういうーーーーっ」
瞬間、目の前が真っ赤に染まる。
唇には柔らかい感触、アンスリアの髪が頬に触れる。視界に入るのは目一杯の好きな人の顔。
まさかだけど、わたし…今キスされてる?
「…っはぁ、ルーナこれでわかったかしら?」
「え?え?わたし今アンと…これは夢?」
「ルーナ、落ち着いて。ルーナが頑張ってるのはコルワから聞いてたのよ。ごめんなさいね」
「へ…?」
「だからその…ルーナがわたしのこと…」
「まっ、まって!」
アンスリアの肩を掴んで深呼吸をしてゆっくり言葉を紡いでいく。
「ちゃんと、言うから…」
「えぇ」
「アン…ううん、アンスリア わたし、アンのこと好きよ」
「わたしも、ルーナのこと好きよ」
燃えるような美しい赤い髪に惹かれて、いつの間にか好きになってた。彼女を知りたくて、無意識に目で追いかけていた。
きっといつまでもあなたに恋しているのでしょう。
「ねぇ、さっきの続きしない?」
「はぅ!?」
「あれ?アンさっきまでのアンはどこに行ったの?」
「あぅぅぅ…恥ずかしい」
「ふふ、アンは本当に可愛いんだから」
「やっ…そこダメ…!」
「アンのえっち♡」
「〜〜〜ッ!んっ…はぁ、ルーナぁ…」
【兼相】とある夏の日。
日差しが照りじわじわ熱気が肌に伝わる暑い日、俺は顔に汗を伝わせながら今日の内番である畑仕事に精を出していた。
「あちぃ……」
「兼さんはたくさん着てるもんね」
俺の内番の服は着物の下にまた服を着ているため他の人より倍は暑いはずだ。隣でくすっと堀川国広が笑いながら畑を耕している。
今日の内番は新たな作物として粟田口の短刀組の意見でトウモロコシを植える作業をしている。他にもトマト、なす、枝豆を植えている。
「とっとと終わらせて本丸で涼もうぜ」
「うん、そうだね!今日は相楽ちゃんがとっておきの物を用意してるって言ってたし、楽しみだなぁ」
俺は本当か!?と目を輝かせ、せっせかと畑を耕しトウモロコシのタネを蒔く。
相楽こと蓮月相楽は今の主人で俺たちをツクモ神として顕現させている奴で少し気になっている奴だ、俺は相楽と過去に一緒の場所にいたことがあるがその時の相楽は女ではなく男だった。詳しいことは話せないが、とにかく俺は今の相楽に惚れている。
その相楽がなにやら褒美をもっているとなると張り切るしかないじゃないか。
「あとこれだけだな?」
「このトマトのタネを蒔いたら終わりだよ」
「よっしゃ、蒔くぞ」
「はいはーい」
トマトのタネをパラパラと俺が蒔いて国広が水をかけていく。そして最後のタネと水撒きが終わり、駆け足で本丸に向かう。
「相楽!内番終わったぞ!」
しかし、しーんと静まり返る玄関。いつもなら相楽が出迎えてくれるが今日に限って出てこない。…なにかあったのか?と焦る気持ちが強くなりつつ 部屋の襖を開けるがそこには相楽は居らず代わりに大倶利伽羅が居た。大倶利伽羅は察したのか溜め息をつきながら口を開いた。
「あいつなら部屋でへばってるぞ」
「!?」
「心配なら早く行け」
大倶利伽羅が言ったことに驚きを隠せず、礼を言うのも忘れ相楽の部屋に向かう
「相楽!!!!!」
「うわっ、!?」
「ひゃ!!!!」
勢いよく襖を開け相楽の安否を確認するが部屋には相楽1人だけでなく燭台切と鶴丸さんがいた。
「つめた…っ」
「ご、ごめん!相楽ちゃん、冷たかったよね!?」
「はははははっこりゃ驚いたね」
どうやら布団で寝ている相楽を看病していたらしい、燭台切が冷やした布をかけようとした時に俺が勢いよく襖を開けてしまったらしい。
「和泉守くんびっくりしたよ…内番は終わったのかい?」
「あぁ、相楽から褒美があるってきいて急いで終わらせてきた」
「ははっ和泉守らしいな」
「で、なにがあったんだ?」
朝はピンピンしてた彼女が昼過ぎに布団で寝ているとなるとなにかあったに違いない、相楽は、鶴丸さんに助けを求めたが、鶴丸さん本人はケラケラ笑いながら畳を叩いて話にならず代わりに燭台切が説明し始めた。
「えーっとね、君たちが内番に行ってから相楽ちゃんが内番暑いだろうからかき氷作りたいって言い出したところまではよかったんだけどね、待ってたら暑さにやられて倒れちゃってこんな状態に…」
「うぅ…」
燭台切の説明で状態は理解した。元々相楽は暑いものが苦手でこういう日はよく体調を崩していた。今回も暑さが原因ということ、そして褒美はかき氷の事だったらしい。相楽はみっともないと思ったのかスルスルと布団に潜っていく
「和泉守くん来たことだし、相楽ちゃんのことは任せてもいいかな?これから僕たち用事があって」と言い残しそそくさと2人はでていってしまった。部屋には俺と相楽の2人だけ、俗に言う"ちゃんす"がきた。
「…ごめんね、兼さん こんな主みっともないよね」
「そんなことねーよ、暑さにやられるぐらい何度でもあるだろ …一緒にかき氷食ってゆっくり休め」
心臓がバクバク言ってるのが耳でわかるぐらい緊張している。 座った隣にかき氷機と氷の入った桶が丁度あり、湯のみを置き ガシャガシャと雑に回し出来立てのかき氷を相楽に渡す。相楽はポカーンとしたと思ったら吹き出して「シロップないじゃん〜」と笑う。
「もってくるか?」
「ううん、このままでいいよ 溶けちゃうし… いただきます」
ただの氷を砕いたものを口に運ぶ、冷たさが伝わったのか相楽が唸る。「つめたいー」といって匙を俺に向けてくる。
「ほんとは兼さんのご褒美なんだからわたしがあげる立場なんだから…ほら食べて」
「いいのか?」
「早く、溶けるから」
匙に乗った氷を食べる、体に冷たさが伝わり暑さが飛んだ。
「シロップなくてもいけるな」
「うん、いけるね」
「…あー、早く治せよ?俺が蒔いたトウモロコシ食べるだろ?」
「もちろん!」
相楽はニッと笑い布団に横になり眠りについた。
俺は眠る相楽の手を握り誰にも聞こえない声で"好き"と伝えた。
ーーー後日、相楽と間接で匙を使っていたところを鶴丸さんがみていて本丸が大騒ぎになったのは別の話。
【2015-06-13:by Privatter】
【シンヒナ】バッドエンドは船の上 後編
スローモーションにみえたから助けれるはずだった。実際は、驚いてヒナの名前を呼ぶことしかできず、一瞬にして砂浜にヒナの体が打ち付けた。俺の名前を呼ばれた時にはもうヒナの意識は闇の中。急いで脈拍を確認すると脈は動いていて、微かに息をする声も聞こえた。
「よかった…まだ生きてる…」
ヒナを抱き寄せ暖かい体に触れたら涙が止まらなくなった。
「ヒナ、ごめんな。こんな情けなくて頼りない男がヒナの恋人で…幸せにさせてあげられなくてごめんな…俺と一緒に居たから金属器使いになって…俺がヒナの一族の力のことを調べずに攻略させてしまったからこんなことになって…ごめん…ヒナごめん…」
涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになり、本音がボロボロと溢れて嗚咽と混ざった声は誰もいない海へと消えいった。
俺の涙がヒナの頬に伝っていくとヒナが目を覚ました。
「シン…また泣いてるの?泣き虫になっちゃったの…?」
「違う…ヒナが倒れるからびっくりしただけだ」
「……ウソツキ」
ってヒナは微笑んで頬にキスを落とした。あまりにも美しすぎて今日2度目のフリーズをした。クスクス笑ってヒナがシン、船に乗ろう?って言ってくるからヤケクソで了承して、ヒナをおぶり手漕ぎ船へと向かった。
***
ヒナと手漕ぎ船に乗るのは2度目だ。1度目はヒナが俺が船乗りしているところをみたいと騒いでいた時に渋々乗った時だ。あの時は手漕ぎ船に乗ることがヒナは初めてでやけにテンションが高くて最後にはバランスを崩して海に落ちていったのを思い出してクスクス笑っていたら気持ち悪がられた。
船をゆっくり漕ぎ始めると、膝に座っていたヒナが俺の首に腕を絡めてきた。
「夕陽、綺麗だね…」
「あぁそうだな…」
ヒナが思いつめた顔をしてどうした?って問いかけてみると夕陽の眩しさに目をしかめながらぽつりぽつり呟いていく。
「あのね、わたし後悔してないよ…帝国の王の血統でシンと出会ったこと…」
穏やかな波の揺れを感じながらひとつひとつヒナから発せられる言葉を噛み締めていく。
「最初に会った時嫌われてたことも、シンの元から逃げて練玉艶に付け込まれてシンドリアに来てシンを襲ったのも…恋人になったのも…」
まるで俺の叫びを知っているかのようにヒナは優しい声で幸せだったと言う。
「シンのお手伝いが出来ることがなによりも気持ちが満たされて…マグノシュタットで戦った時…一緒に極大魔法撃てたことも…ぜんぶぜんぶ満たされ…すごく愛を感じるの…」
徐々にヒナの声がかすれていく、苦しそうに言葉を紡ぎ続けることしか見守れない自分に罪悪感が募っていく。
「でもね…心残りが…ひとつあって…」
「なんだ?それは俺の知らないこと?」
心残りという言葉に動揺して思わず聞いてしまった。なにかがあるのなら今すぐにでもヒナのためにやらなくてはならないとグルグル思考を回していたら、ヒナが微笑んで言う。
「シンと…の、子供…ほしかったなぁ…って」
「ヒナ…っ!」
言葉にならなかった。ヒナの口から俺との子供が欲しいなんて初めて聞いた。ヒナを抱きしめていた力がより強くなる。
「だから…次は絶対に…シンを探して…っ 見つけて…結婚して…幸せに…なるの…だから」
ーー頑張ったから今は休んでもいいよね
苦しそうに呼吸をしながら願いを告げたヒナがあまりも愛おしかった。
「あぁ…ヒナ、ヒナは十分すぎるぐらい頑張ったし、俺の知らない世界を教えてくれた。ヒナだけなんだ。こんなにも愛おしくて守りたいのは。…俺が先にヒナを見つけるからな、約束だからな…絶対こんなところで終わらないように生きて、生き続けような」
嗚咽まじりにヒナに今の気持ちを全部伝えた。ヒナは力を振り絞るようにうん、と頷いた。
「シン…あいして…る」
「俺もヒナのこと愛してる…」
最後の別れのキスは涙の味でしょっぱかった。
そして日が沈むと同時にヒナは俺の腕の中で眠るように静かに息を引き取った。
「おやすみ…愛しい俺のお姫様」
バッドエンドは船の上
【シンヒナ】バッドエンドは船の上 中編
わたしは、ティトスからあと少しの命ということは聞いていた。そして、このベッドだけがある白い部屋から出たらわたしの中にいるルフが活動しなくなることも聞いていた。
つまりこの部屋を出ることは死を意味していた。
ティトスは残り少ない命のわたしに願いを叶えてくれると言ってくれた、大好きなシンに会いたいって言ってみたら、シンが来てくれた。
瞼が重くて、体を動かすことすら辛かったのに、シンが呼びかけてくれたら自然と目も開いて腕も伸ばすことができた。これはきっと愛の力だとわたしは信じた。
シンからなにをしたいか聞かれても、ここから出ることは叶わない、だって死んじゃうから。
だけど、もし叶うならば外に出たいと思っていたらぽろっと口に出してしまっていた。口に出した時は、外に出ることが怖くて怖くてたまらなかったけど、シンの目を見たらこの人の腕の中で息をすることを止めるのも悪くないなって思った。
***
シンはどうやら魔装してここまで飛んできたみたいで、帰りもそうするらしい。
「ヒナ、軽くなったな…」
わたしをおんぶして悲しそうに言うから頭を叩いた。
「重いって言われるよりかマシだよ」
「腕も細くなった」
「ここではそんなにご飯たべてないからね」
「シンドリアについたらまずはメシだな」
なんてたわいもない話をしてたら外に出るための窓に手をかけたシンの窓に映った目が一瞬合った。
「…ヒナ、怖いか?」
やっぱやめようか、なんて言うから覚悟を決めるしかない。シンの背中に顔を埋めて深呼吸をする、1回、2回、3回と。シンに多くない?って笑われたけどわたしはこれから死への旅に出るんだからこれぐらいは許してほしいわ。
「もう、大丈夫 シン行こう?」
そう言ったらシンは窓に手をかけて大空に向かって飛んだ。
***
生身の体で空を飛ぶと言う感覚は初めてで、強すぎる風はわたしの体を痛めつけていった。金属器のセーレの力を使おうと思ったけど、少ない命を散らすことを早めてしまいそうで、強風を耐えた。
無事にシンドリアについたのはお昼を過ぎたあたりで、市場は夕食の材料を求めている国民で賑わっていた。
おんぶを降ろしてくれて、久しぶりにシンドリアの地に足をつけた。なぜかそれだけで感動して涙が止まらなかった。
「ヒナ、おかえり」
そんなこといってシンは抱きしめるから余計に涙は止まらなくて、
「ただいまーーーーーー」
大きな声で返事をした。
***
あの後、大声を出したせいで市場にいた人達からの注目の的になってしまって、海岸に逃げてきた。シンはバレたくなかったようで若干拗ねてる。
「国民はヒナのこと大好きだから、あんな大声出したらヒナは俺だけをことをみてくれないだろ?」
ってもっと拗ねるからごめんねっていって抱きしめたはずだった。
いきなり体から力が抜けて、目の前が揺れ、心臓がバクバクを強く打ち付ける。突然起こった事態に脳がパニックを起こしてうまく息が吸えない。
「ヒナッ!!」
「シ…ン…!」
たすけてって言いたくて手を伸ばしたはずなのに、電源が切れたように視界が真っ暗になった。
ーー大いなるルフの流れよ
ーー最後に、あの人に伝えたいことを言わせて
ーーそれを言ったら全てあげる
ーーだから
【シンヒナ】バッドエンドは船の上 前編
好きな人が死ぬ直前、なにをしてあげるのが最善だと思う?
俺は抱きしめて、彼女の願いを聞いて叶えてあげることだと思う。
願いは何でもいい、外出すること、食事をすること、色事でも…
まぁそれはなし。俺が欲望に忠実すぎるだけだから。
レーム帝国 ヴァルト領
元はヴァルト帝国と呼ばれ、帝国の祖先はアルマトランからの先住民であるとアラジンから聞いた。帝国の王の一族には特異な能力がありその能力は、あのシェヘラザードが危険視するもので、ヴァルト帝国はレーム帝国に吸収合併され、現在は首都レマーノに次ぐ第2の都市ヴァルト領として機能している。
なぜ俺がヴァルト領に赴いたのかと言うと、恋人であるヒナが生活をしている土地だからだ。ヒナはシンドリアで生活をしていたが、度重なる戦闘や一族の能力の影響で体は急激に衰弱していき、ついには歩くことさえままならなくなった。
このままではまずいと思い、ヒナをヴァルト領に送った。ヴァルト領ではヒナのルフは安定し、これ以上衰弱することはないとレームのマギのティトスに言われていたからだ。
だが、その安心は一瞬で崩れ去った。
1ヵ月前、仕事に追われている時ティトスから連絡が入った。
この時から嫌な予感はしていたんだと思う。
「ヒナさんの容態が急変して、このままだと1ヵ月もつかどうか…」
ヒナの余命を宣告されたとき、不謹慎だが笑みがこぼれてしまった。ヒナがようやく楽になれると。
「ヒナさんから伝言があって、シンドバッド王に会いたいと…」
「わかった、調整してみるよ。」
そして日程を調整して現在に至る。ヴァルト領内のヒナがいる場所に行くと、ティトスが待っていた。
「おひとりで来たんですね。」
「大勢来てもヒナが疲れるだけだからな…それに久しぶりに2人きりになれるんだ、配慮ぐらいしてもらわないと困る」
「いい方々ですね、ではご案内します。」
重々しい扉が開かれる。
最初に目に入ってきたのは天蓋付きの真っ白い寝台で眠っているヒナ
近づくと生きているのか死んでいるのか区別がつかなかった。
「ヒナ…?」
呼びかけるとゆっくりと目を開きやせ細ってしまった手を伸ばして俺の手に指を絡める。
「シン…来てくれたんだね」
かすれたヒナの声は、今にもヒナの存在が消えてしまいそうな錯覚に陥り、自然と涙が溢れた。
「なんで、泣いてるの 生きてるよ」
「久しぶりに会えて嬉しいだけだ…っ そうだヒナ、やりたいことないか?俺、ヒナに会うために頑張って仕事調整してきたんだ」
そう、今日ここに来た理由ははヒナがやりたいことを叶えるためにここまで来たんだ。
ヒナが戸惑っているが無理もない。この部屋は魔力を調整し、ヒナが生きるために最適な環境になっているからだ。この部屋から出るということを望むなら命を散らすということになる。
いまだ戸惑うヒナは言葉を紡ぎだした。
「シンドリアに帰って、シンと二人で船に乗って海を見たい…それに」
ーーー最後ぐらい好きな人の腕の中で眠りたいよ
ヒナの小さく呟いたことを聞いてしまい思わず抱きしめた
「今から帰ろう?魔装を使ったらシンドリアなんですぐに着くし船に乗って一緒に夕陽を見よう?夜にはここに戻ってこれるように調整するしさ…な、いいだろ?」
「うん…帰りたい」
ヒナは笑顔で涙を浮かべなからそう言った。
ーー神よ、いまだけ願わせてください。
ーーこの子の最後の時間、俺にください。