【シンヒナ】バッドエンドは船の上 後編
スローモーションにみえたから助けれるはずだった。実際は、驚いてヒナの名前を呼ぶことしかできず、一瞬にして砂浜にヒナの体が打ち付けた。俺の名前を呼ばれた時にはもうヒナの意識は闇の中。急いで脈拍を確認すると脈は動いていて、微かに息をする声も聞こえた。
「よかった…まだ生きてる…」
ヒナを抱き寄せ暖かい体に触れたら涙が止まらなくなった。
「ヒナ、ごめんな。こんな情けなくて頼りない男がヒナの恋人で…幸せにさせてあげられなくてごめんな…俺と一緒に居たから金属器使いになって…俺がヒナの一族の力のことを調べずに攻略させてしまったからこんなことになって…ごめん…ヒナごめん…」
涙と鼻水とでぐちゃぐちゃになり、本音がボロボロと溢れて嗚咽と混ざった声は誰もいない海へと消えいった。
俺の涙がヒナの頬に伝っていくとヒナが目を覚ました。
「シン…また泣いてるの?泣き虫になっちゃったの…?」
「違う…ヒナが倒れるからびっくりしただけだ」
「……ウソツキ」
ってヒナは微笑んで頬にキスを落とした。あまりにも美しすぎて今日2度目のフリーズをした。クスクス笑ってヒナがシン、船に乗ろう?って言ってくるからヤケクソで了承して、ヒナをおぶり手漕ぎ船へと向かった。
***
ヒナと手漕ぎ船に乗るのは2度目だ。1度目はヒナが俺が船乗りしているところをみたいと騒いでいた時に渋々乗った時だ。あの時は手漕ぎ船に乗ることがヒナは初めてでやけにテンションが高くて最後にはバランスを崩して海に落ちていったのを思い出してクスクス笑っていたら気持ち悪がられた。
船をゆっくり漕ぎ始めると、膝に座っていたヒナが俺の首に腕を絡めてきた。
「夕陽、綺麗だね…」
「あぁそうだな…」
ヒナが思いつめた顔をしてどうした?って問いかけてみると夕陽の眩しさに目をしかめながらぽつりぽつり呟いていく。
「あのね、わたし後悔してないよ…帝国の王の血統でシンと出会ったこと…」
穏やかな波の揺れを感じながらひとつひとつヒナから発せられる言葉を噛み締めていく。
「最初に会った時嫌われてたことも、シンの元から逃げて練玉艶に付け込まれてシンドリアに来てシンを襲ったのも…恋人になったのも…」
まるで俺の叫びを知っているかのようにヒナは優しい声で幸せだったと言う。
「シンのお手伝いが出来ることがなによりも気持ちが満たされて…マグノシュタットで戦った時…一緒に極大魔法撃てたことも…ぜんぶぜんぶ満たされ…すごく愛を感じるの…」
徐々にヒナの声がかすれていく、苦しそうに言葉を紡ぎ続けることしか見守れない自分に罪悪感が募っていく。
「でもね…心残りが…ひとつあって…」
「なんだ?それは俺の知らないこと?」
心残りという言葉に動揺して思わず聞いてしまった。なにかがあるのなら今すぐにでもヒナのためにやらなくてはならないとグルグル思考を回していたら、ヒナが微笑んで言う。
「シンと…の、子供…ほしかったなぁ…って」
「ヒナ…っ!」
言葉にならなかった。ヒナの口から俺との子供が欲しいなんて初めて聞いた。ヒナを抱きしめていた力がより強くなる。
「だから…次は絶対に…シンを探して…っ 見つけて…結婚して…幸せに…なるの…だから」
ーー頑張ったから今は休んでもいいよね
苦しそうに呼吸をしながら願いを告げたヒナがあまりも愛おしかった。
「あぁ…ヒナ、ヒナは十分すぎるぐらい頑張ったし、俺の知らない世界を教えてくれた。ヒナだけなんだ。こんなにも愛おしくて守りたいのは。…俺が先にヒナを見つけるからな、約束だからな…絶対こんなところで終わらないように生きて、生き続けような」
嗚咽まじりにヒナに今の気持ちを全部伝えた。ヒナは力を振り絞るようにうん、と頷いた。
「シン…あいして…る」
「俺もヒナのこと愛してる…」
最後の別れのキスは涙の味でしょっぱかった。
そして日が沈むと同時にヒナは俺の腕の中で眠るように静かに息を引き取った。
「おやすみ…愛しい俺のお姫様」
バッドエンドは船の上