【シンヒナ】バッドエンドは船の上 前編
好きな人が死ぬ直前、なにをしてあげるのが最善だと思う?
俺は抱きしめて、彼女の願いを聞いて叶えてあげることだと思う。
願いは何でもいい、外出すること、食事をすること、色事でも…
まぁそれはなし。俺が欲望に忠実すぎるだけだから。
レーム帝国 ヴァルト領
元はヴァルト帝国と呼ばれ、帝国の祖先はアルマトランからの先住民であるとアラジンから聞いた。帝国の王の一族には特異な能力がありその能力は、あのシェヘラザードが危険視するもので、ヴァルト帝国はレーム帝国に吸収合併され、現在は首都レマーノに次ぐ第2の都市ヴァルト領として機能している。
なぜ俺がヴァルト領に赴いたのかと言うと、恋人であるヒナが生活をしている土地だからだ。ヒナはシンドリアで生活をしていたが、度重なる戦闘や一族の能力の影響で体は急激に衰弱していき、ついには歩くことさえままならなくなった。
このままではまずいと思い、ヒナをヴァルト領に送った。ヴァルト領ではヒナのルフは安定し、これ以上衰弱することはないとレームのマギのティトスに言われていたからだ。
だが、その安心は一瞬で崩れ去った。
1ヵ月前、仕事に追われている時ティトスから連絡が入った。
この時から嫌な予感はしていたんだと思う。
「ヒナさんの容態が急変して、このままだと1ヵ月もつかどうか…」
ヒナの余命を宣告されたとき、不謹慎だが笑みがこぼれてしまった。ヒナがようやく楽になれると。
「ヒナさんから伝言があって、シンドバッド王に会いたいと…」
「わかった、調整してみるよ。」
そして日程を調整して現在に至る。ヴァルト領内のヒナがいる場所に行くと、ティトスが待っていた。
「おひとりで来たんですね。」
「大勢来てもヒナが疲れるだけだからな…それに久しぶりに2人きりになれるんだ、配慮ぐらいしてもらわないと困る」
「いい方々ですね、ではご案内します。」
重々しい扉が開かれる。
最初に目に入ってきたのは天蓋付きの真っ白い寝台で眠っているヒナ
近づくと生きているのか死んでいるのか区別がつかなかった。
「ヒナ…?」
呼びかけるとゆっくりと目を開きやせ細ってしまった手を伸ばして俺の手に指を絡める。
「シン…来てくれたんだね」
かすれたヒナの声は、今にもヒナの存在が消えてしまいそうな錯覚に陥り、自然と涙が溢れた。
「なんで、泣いてるの 生きてるよ」
「久しぶりに会えて嬉しいだけだ…っ そうだヒナ、やりたいことないか?俺、ヒナに会うために頑張って仕事調整してきたんだ」
そう、今日ここに来た理由ははヒナがやりたいことを叶えるためにここまで来たんだ。
ヒナが戸惑っているが無理もない。この部屋は魔力を調整し、ヒナが生きるために最適な環境になっているからだ。この部屋から出るということを望むなら命を散らすということになる。
いまだ戸惑うヒナは言葉を紡ぎだした。
「シンドリアに帰って、シンと二人で船に乗って海を見たい…それに」
ーーー最後ぐらい好きな人の腕の中で眠りたいよ
ヒナの小さく呟いたことを聞いてしまい思わず抱きしめた
「今から帰ろう?魔装を使ったらシンドリアなんですぐに着くし船に乗って一緒に夕陽を見よう?夜にはここに戻ってこれるように調整するしさ…な、いいだろ?」
「うん…帰りたい」
ヒナは笑顔で涙を浮かべなからそう言った。
ーー神よ、いまだけ願わせてください。
ーーこの子の最後の時間、俺にください。